名古屋高等裁判所 昭和24年(控)824号 判決
被告人
丸山縣太郞
主文
本件控訴は之を棄却する。
理由
弁護人相沢登喜男提出の控訴趣意書の要旨は
第一点原審手続は法令の違反あつて違法なるものと信ず即ち原審の公判調書を檢するに檢察官は証拠調のはじめに所論冐頭陳述を行ふべきに不拘之を爲した形跡なく、單に証拠説明の片鱗を認むるのみ、又「起訴事実全般に付」とか「被告人より丸山とみ江が現金を受領した関係に付」とか莫然と立証趣旨を述べたるのみにては第二百九十六條の要求せる冐頭陳述と認め難ければ違法なるものと信ず。
と謂ふにある。
依つて記録に基き審按するに
原審第一回公判調書の記載を看るに
檢察官は本件起訴事実の被害を立証の爲め
一、石川將一提出の盜難被害顛末書起訴事実全般に付
二、被告人の司法警察員に対する供述書及弁解録調取書
三、被告人の檢察官に対する供述調書及弁解録取書、被告人より丸山とみ江が現金を受領した関係に付
四、丸山とみ江提出の消費調末書、の各証拠申請をした上
内右(一)(四)の書類に付き之を証拠とすることに付被告人の同意を求めたり
と記載せられてあつて一見冐頭陳述を欠如してゐる如く見えるが翻つて考へると刑事訴訟法第二百九十六條の法意は檢察官に対し証拠に依つて証明せんとする事実を明にする義務を負担せしめたものであつて其履行の方法に就ては何等の形式を定めてないから証拠調べの冐頭に於て「如何なる証拠により如何なる事実を立証せんとするか」を明にせば足るものと解釈せねばならない。これを刑事訴訟規則第百八十九條の規定と対比するに、その異なるところは「明にする」と「表示する」との差があるのみであるから実際問題としては簡單な事件に就ては全く同一に帰着する場合もあるであらう。而も同一事項を二回繰り返して述べる必要も認め難いから本件のような簡單な事案については「冐頭陳述」と「立証趣旨の陳述」とを併せて述べることも亦許さるべきものと謂はなければならない。即ち前記調書の記載は敍上の方法を採つたものであつて冐頭陳述を全く欠如したものとは認められないから結局判決に影響が無いものと断ぜざるを得ない。
以下省略